「打ち込みます。紗世、ベッドをもう少し起こして、サイド机を」

「はいっ」

黒田は結城の様子を窺いながら、パソコンを取り出す。

「紗世、コンセントつないで。プラグは……」

黒田がパソコンをセットしたサイド机の上に置く。

「ありました」

「ん……」

結城は指をほぐし、関節をポキポキ鳴らした。

左手の甲、変色した大きな傷が痛々しい。

原稿をパソコンの横に置くと、いきなり猛スピードで、キーを叩き始める。

超高速のブラインドタッチ、指先が見えない。

――速い。あの汚文字を!?

黒田は言葉もなく交互に、画面と結城の手元を見つめる。

黒田は梅川百冬が、結城をどれほど頼りにしているのかを実感する。

約20ページに及ぶ汚文字原稿、結城は難なく打ちこんでいく。

「紗世、辞書を」

「はい」

紗世は鞄から電子辞書を取り出す。