西村は2人の様子を見守るように見つめながら、結城の颯爽とした仕事ぶりを思い出していた。

黒田と紗世は西村宅を出た後、梅川百冬の超汚文字原稿を預かった。

黒田が担当をしていた頃よりも、更に磨きのかかった汚文字。

黒田は「お手上げだわ」と肩を落とす。

「結城さんになら読めますよ」

紗世は社に戻っていた車のハンドルを切り、ウィンカーを上げる。

「麻生さん!?」

「詩乃さんからメールがあって、結城さんが退屈してるから相手をって」

「それは単なる経過報告で……」

「結城さん、仕事したくてウズウズしてるんですよ、きっと」

黒田は紗世の楽天思考に呆れつつ、「仕方ないわね」と言う。

が、その顔は心なしかほころんでいる。

病院に着くと、紗世は黒田を急かすように、結城の病室に向かう。

「そんなに急がなくても」

黒田は足を庇いながら、歩を速める。