「水墨画が水彩画になっていくみたいな」

「そうだ。主人公の閉ざされた心が1話ごと開かれていくような……実にみごとな演出だ。それに……」

西村は葉巻を一服し、ゆっくりと紫煙を吐く。

「沢山くんの『空を詠む』の色鮮やかさとの対比も実に巧みだ」

「深い所まで読んでくださっているんですね」

「はっはっは、万萬詩悠は『限りなく』から注目しているんだ。見ていたまえ、万萬は沢山くんを越える売れっ子作家になる」

――結城さんに聞かせたい

紗世は目をうるうるさせる。

――エロおやじなんて言っちゃダメじゃないですか

紗世が、そう思って西村の顔をちらと見る。

「麻生さん、そちらのチェックは終わったの」

「すみません……もう少し」

「そんな暢気な仕事では、由樹の補佐は勤まらないわよ」

「はいっ」