「麻生、実は……編集部からの引き抜きなんだ。お前の行動力を見込んでの抜擢だ」

紗世は溢れ出した涙を拭いもせず「嫌ですよ~」と、激しく泣き始める。

「麻生、お前なら大丈夫だ」

小今田部長が節くれだった手で、紗世の肩をポンポンと撫で「がんばれよ」と包み込むように、微笑んだ。

暖かな小今田部長の笑顔は、さらに紗世の涙を誘う。

「麻生、飯でも食いに行くか? 今日は何でも好きな物、食べていいぞ」

「部長……それなら、私。マダム林檎のケーキバイキングを食べたいです!!」

「げんきんな奴だな、わかったわかった」

紗世はまとめてきた商談書類のファイルから、契約書を取り出し、小今田部長に手渡し大きな目をキラキラさせた。