「由樹は貴女に、そういった嫌な声をなるべく聞かせないようにしていたみたいね」

「結城さん……」

紗世は改めて、結城の優しさや気配りを実感する。

「わたし……何も知らなかった。結城さんがそんなに……」

涙ぐむ紗世の肩に黒田が、そっと手を置く。

「由樹は貴女に笑っていてほしかったのね。貴女の悲しむ顔、見たくなかったのよね」

紗世は零れ落ちる涙を服の袖で、ゴシゴシ拭う。


「……黒田さん。わたし、結城さんにいっぱい笑顔でいてほしいです」

紗世は涙声だ。

「貴女は泣いた顔より笑顔がいいわ。貴女の笑顔で由樹を元気にしてあげて」

「笑顔で元気に?」

「由樹の心には今も雨が降ったままだわ。……冷たい雨がずっと降ったまま」

――あの事故の日みたいに

黒田は目を閉じ、言葉を飲みこんだ。