「あの頃の由樹は今みたいにオーラもなかったわ……見ていて痛々しいくらいだった」

「黒田さん……」

「でも、下手に手助けすれば彼はダメになると思ったの。喋れない彼に1人で担当をさせたこと……彼は大変だったと思うわ」

「1人でーー」

「由樹には事故後、厳しく接したわ。鬼と言われて当然なくらい……でも、担当を任せた先生方からお叱りを受けたことはないのよ」

「すっごい」

「由樹は喋れなくなってからの方が仕事が丁寧で速いと……由樹が体力的に無理をしてい、るのは感じていたのに」

紗世の顔が曇る。

「詩乃さんは側で見ていて辛かったんでしょうね。嘘をつくほど心配だったのね」

診察室から詩乃の嗚咽が、微かに聞こえる。

「結城さん……大丈夫でしょうか」

「バカね、由樹は」

黒田は言いながら、紗世をギュッと抱き締めた。