「結城さんはすご~く優しかったんです。
注射を怖がって泣いている男の子を包みこむように……素敵でした」

「あなただったのね。由樹が元気な女の子に会ったと話したのは」

「わたし、あの頃。仕事に行き詰まっていました……営業向かないなって。
でも喋れないのに、泣いてる男の子を一生懸命励ます結城さん見て、頑張ろうと思ったんです」

黒田が深く頷きながら聞いている。

「話の上手い下手じゃないんだなって、そんなことは関係ないんだなと思えたんです」

紗世は当時を振り返り、思いをこめる。


「わたし、あの時。結城さんに元気をもらいました。
結城さんだったと気づかなかったけど、ずっと……あの時の男の人に会いたいと思っていて……結城さんだったとわかって、すごく嬉しかったんです。
やっと会えたと思ったんです」