紗世は拳を握りしめる。

「結城さんが万萬詩悠のことで、あんなに悩んでたなんて……あんなに怒鳴るほど」

「あのこが? 怒鳴ったって……どういうこと!?」

詩乃が紗世の肩を掴む。

「由樹は大声出したり、怒鳴ったりしたら、心臓に負担がかかるって知ってるのに……あのこが怒鳴るなんて」

紗世は「そんなに――」と顔をひきつらせる。

「彼があんなに取り乱した理由は、わかりません。でも、理由もなく、怒鳴ったとは思えません」

黒田が申し訳なさそうに言う。

診察室のドアが開き、看護師が名前を呼ぶ。

詩乃はサッと立ち上がり診察室に入っていく。

黒田と紗世は取り残されたように、並んで椅子に座り直す。

「ずいぶん無理をしていたみたいね、由樹は」

黒田がポツリ呟く。

「由樹は……あなたのことになるとムキになる」