「……万萬詩悠は喋れないと。由樹は、ずっと私の嘘を守って、万萬詩悠を演じていた。辛そうで見ていられなかった……」

黒田も紗世も、じっと詩乃の話を聞いている。

「由樹を守るためについた嘘なのに、あのこを苦しめていたのかもしれない」

「……詩乃さん」

「ゴーストなんて……」

「1年半前の由樹は、本当に喋れなかったわ。詩乃さんが気に病むことは」

「ゴーストなんて言われて無茶をさせるくらいなら、嘘なんかつかなかった……」

詩乃は頭を抱えて項垂れている。

「結城さんは、詩乃さんの嘘をただ守り続けただけではないと思います。結城さんは、ちゃんと作品を書きたいから、万萬詩悠になろうとしたんだと思います」

「でも……」

「ゴーストなんて言う方がどうかしていると思います。いったい誰が……」