紗世はパソコンを打ち始めても、集中できない。

――もう、万萬詩悠の原稿を掲載前には見れないんだ

そう思うと、寂しさが込み上げてくる。

――あの優しくて物悲しい独特の文章と、綺麗な文字を同時に見ることはできないんだ

紗世はそう思うと胸が痛かった。

紗世の頭に浮かぶのは、辛そうな結城の顔だ。

瞳に溢れた涙でパソコンの画面がぼやける。

「編集長、どういうことですか? 何で結城がゴーストなんだ!!」

編集室の扉が勢いよく開き、相田が血相を変え怒鳴りながら、渡部の席に向かっていく。

「相田、落ち着け」

「落ち着いてる場合ですか? 結城が万萬のゴーストなんて」

相田は身を乗り出し、机を荒々しく両手で鳴らす。

――あ!?……違う

「万萬は……万萬詩悠は結城さんなんです!!」

紗世は思わず、叫び立ち上がった。