紗世は席に戻り、結城に一声かけて、鞄の中身を取り出す。

「結城さん、先生から頂いたんです」

そう言って、包装紙を手渡す。

「クッキー、おいしかったですよ」

「……ありがとう」

「!?……結城さん、元気ないですね」

「そうか」

紗世は結城の前髪をさっと掻き上げて、額に手を当てる。

「紗世!?」

「ん……」

「手を」

「ん…… ……熱はないみたいですね」

紗世は満足したように、手を離す。

「何かあったんですか? ……万萬詩悠の正体がバレそうだとか」

耳元で囁く。

――あ……

結城の顔が強張り、じわりと額に汗が滲む。

「えっ、 結城さん!!」

紗世の大きな目が見開かれる。

「……何でもない」

渡部の後ろ、時計がカチリ18時を指す。

結城はパソコンの電源を落とし、帰り支度を始める。

「定時だ」

「結城さん!?」