「紗世には関係ない」

「麻生の社員バッチには、異動になるとき盗聴器を仕掛けておいた」

「……盗聴器」

「浅田くんの協力でね。結城、お前と麻生の会話は全て記録してある」

「そんなもの……誰かのゴーストをしたわけではない」

小今田の表情が、見る間に変わっていく。

「『万萬詩悠のペンネームで書いた『限りなくグレに近い空』が受賞した時、俺は本当に喋れなかった。嘘などついていない」

結城は自分自身に言い聞かせた。

――嘘などついていない、嘘など

「そんなことを誰が信じる? ゴーストという事実。スキャンダルなんてものは、それだけでじゅうぶんだ」

「あんた、何を企んでいるんだ?」

「公表すればどうなるだろうな」

「別にどうなっても構わない。失うものなど何もない」