――こいつ、こんなに暖かかったか?
こんなに物わかりが良かったか?

結城は紗世の言葉と声の抑揚に、ぽかり心に開いた隙間が埋まっていくような感覚になる。

「……わたし、万萬くんに初めて会った時、思い出したんです」

紗世は結城の肩を抱いたまま話し始める。

「知り合いをお見舞いに行った病院のロビーで、泣いてる男の子を宥めてて、二十歳くらいの男の人が肩を叩いて、筆談で話しかけてきて……」

―― ……あっ

結城は平静を装い黙って、耳を傾ける。

「風船を膨らませてって……リハビリに来た患者さんだったみたいで、すごく器用に風船を捻ってウサギを作って、注射が恐くて泣いてた男の子に、注射を受ける決意をさせたんです」

結城は紗世が身振り手振りをしながら、嬉しそうに話すのを静かに聞いた。

「あんな宥め方もあるんだなって、すごく暖かい気持ちになって」