「お姉さんは何で咄嗟にそんな嘘を?」

「……さあな~。大方、書き殴りしてたプロットでも見たんだろ。俺は、否定も肯定もしなかった。ただそれに便乗したんだ。……自分ではない別人になれるならと思った」

「結城さんは今も、そう思ってるんですか?」

「……わからない」

結城は膝を抱え、喘ぐように忙しく息をつく。

紗世は震える結城の肩をそっと両手で包み、ふわりと抱き締める。

――紗世!?

「わたし、万萬くんも結城さんも合わせて結城さんなんだと思います。結城由樹が言えないことでも、万萬詩悠で言えるなら、それでもいいと思います」

「紗世……」

「死にたいとか、別の誰かになりたいって思っている人は、きっとたくさんいます。その人達が万萬詩悠の小説を読んで、何かを感じてくれればいいと思います」