辛そうな結城の息遣いが、紗世の耳に聞こえる。


「結城さんが1人で滅茶苦茶無理して頑張ってるって、みんなが知ってるのに、みんなが結城さんのことを心配してるのに……結城さんは……」

結城が数回、咳をする、胸に手をあて喘ぐように。

西村が結城の体を支えたまま、どうしたものかと助手席側に移動する。

「紗世……小言は調子がいい時に幾らでも聞く」


「結城さんはズルいですよ……いつだってそうやって」

「紗世ちゃん! 今は彼を家まで送るのが先だ」

西村は車のドアを開け、結城を座席へ押し込む。


「……先生、すみません」

結城が所在無さげに頭を下げる。

「結城くん、君も色々と大変だろうが、体は大事にしたまえ。紗世ちゃん、結城くんを頼むよ。儂の大事なパートナーだからね」

風に運ばれたポプラの綿毛が、ふわりフロントガラスの上に舞う。