――わたしがしっかりしなきゃ

唇を噛みしめるように、真一文字に結んだ口と、真剣な目が並みならぬ意志を感じさせる。


玄関へ向かう廊下。

結城がふらつき足がもつれる。

「結城くん!?」

「……大丈夫です」

紗世は後ろを気にしながらも、ずんずんと歩く。

玄関を開けると、風に乗り新緑の香りがした。

結城がくしゃみを数回し、顔をしかめる。

風に運ばれ庭に舞い込んだ街路樹のポプラの種子が、綿毛のように、庭を舞う。

枝を守るように枝先についている綿毛。

つい1時間ほど前。

結城が話したポプラの話を思い出す。

――綿毛状の種子が街路を敷き詰めたら、ふわふわできれいだろうな

そんなことを思っていた紗世。

――あの時には、もうかなり具合が悪かったのかもしれない

紗世はそう思うと、気づけなかった自分が情けなくてならない。