「紗世ちゃんを泣かちゃいかんよ」

西村はニマリと笑う。

結城が息をつくたび、喘鳴がする。

紗世が上下を揃え整えた書類をファイルに挟み、結城の鞄に入れる。

電源をOFFにしたパソコンをケースに仕舞い、USBを結城に手渡す。

「結城さん、立てますか?」

紗世が自分の鞄、結城の鞄、パソコンなど荷物一式を抱えて訊ねる。

「紗世ちゃん、結城くんは(わし)が」

西村が言いながら、ふらつく結城の体を抱えるように支える。

「……すみません」

「結城くん、君が女なら良かったんだがね」

西村は舌舐めずりをするような目で笑う。

結城は抵抗する気力もない。

「結城さん、車の鍵を」

西村をキッと鋭く睨む紗世。

「……鞄の内ポケットの中」

結城は消え入りそうな頼りない声で、こたえる。

紗世は気丈に振る舞う。いつものおっとりした様子はない。