西村は三段腹を揺らし大声で笑ったかと思うと、つらつらと小説の続きを語り始めた。

「クシュン」

結城が鼻を啜る。

「先生、すみません。【銀田末が頭を掻くと、肩にフケが落ちた】の続きからお願いします」

「ああ……、【凶器、遺体の傷、衣服の乱れ等を思い付くままザラ半紙に書きなぐるが、閃くものは何1つない】……」

暫く順調に結城がタイピングする音が軽快に鳴っていたが、結城が再びクシャミをし、西村は語りを止める。

結城は咳払いをし、立て続けに湿った重い咳をする。

「結城くん、体調が悪いのかね?」

「……すみません、朝から喘息が少し」

結城は言って、鞄からペットボトルを取り出し、口に運ぶ。

ひと口、喉を潤し溜め息をつく。

「紗世、替わって」

結城は席を立ち、紗世に座れと促す。

「先生。申し訳ありませんが、ゆっくりお願いします」