西村がピクリ、眉を動かす。

「くわばらくわばら。結城くんは、いわゆる粗探しをしているわけだ」

「トリックの矛盾は、作家の実力を問われるだけでなく、数字に跳ね返りますからね」

「ほお、黒田くんに似てきたな。貫禄が出てきたよ」

「まだまだ、黒田には及びませんよ」

結城はフッと儚げに笑う。

「ご謙遜を。『円山夏樹出版の結城』と言えば、剃刀(かみそり)とまで言われ恐れらているほどの切れ者だよ」

「へぇ~」

西村の言葉に紗世が唖然とし、口をポカンと開けている。

「よしてください。人を切り裂きジャックみたいな言い方。ったく、ゴースト疑惑や寝取り疑惑……ろくな言われようをしていないんですから」

結城はさらりと言う。

「わっははは。言われているうちが華だよ、結城くん。できる者にダークな噂は付き物と思いたまえ」