「簡単に言うな。それができたら苦労してない」


――結城さんは、こんな会話をしていても、先生の前に出ると嘘みたいにシャキリとする

紗世は結城が、根っからの仕事マンだと思う。

結城は玄関扉の前で、軽く咳払いをし、姿勢を正す。

西村は「普段は事務的で無愛想な家政婦が、君が来ると頬を染めるんだ」と豪快に笑う。

結城は、部屋まで案内し、退室する家政婦の後ろ姿を見る。

――こういうのもセクハラと呼ぶんだろうな

結城は「どうも」とこたえたが、笑うに笑えなかった。

「西村先生、早速始めましょうか。前回は警部と銀田末が犯行現場について口論する場面でしたが結局、現場の特定には至りませんでしたが……」


言いながら、結城はパソコンを開き起動させる。


「銀田末が引っ掛かっているのは腰を縛った跡と数ヶ所の打撲傷ですよね」