子供は総合案内カウンターの事務員と話をしている母親に駆け寄り、しがみつく。

『助かったよ、ありがとう』

「こちらこそ、どうしていいかわからなかったから助かった。ありがとう」

『誰かの見舞いに来たんだろ? 相手、待ってるだろ?』

「あーーっ、そうだった」

紗世は慌てて駆け出していった。

結城が紗世と初めて交わしたやり取りは、そんな1幕だった。

リハビリに通っていた頃、結城は今ほど目立たなかった。

精神的にかなりまいっていたせいもあり、オーラも印象も弱かったのかもしれない。

――紗世は全く覚えていないようだが……。
紗世の一生懸命さは、あの頃も今も変わっていないな

結城は「うつむくことを知らない奴だ」と思う。


――あいつを見てると、沈んでいる心が疼く。
いつまで、うつむいているんだと言われているように

結城はそれをイヤだとは思えない。