泣きわめいていた子供は、泣くのを止め、結城の手に握られ、形を成していく風船を、目を皿のようにして見つめている。

「器用ね」

『まあな、大道芸を見ていて覚えたんだ』

長い耳、丸い顔、丸い尻尾――結城が作ったのはウサギ。

結城はそれを子供に手渡し、素早く画用紙に文字を書いた。

『悪いけど、カッコ内を感情込めて読んで。【ちゅうしゃ。ウサギちゃんがついてるから、なかないで。すこし、チクッてするだけだから、がんばろうよ】』

結城に言われるまま、紗世は素直に文字を読んだ。

「うん、がんばる。ありがとう」

子供はしゃくりあげながら、涙を拭き拭き、紗世と結城を交互に見た。

ウサギの風船をしっかり握りしめている。

「ママーっ。ぼく、もうなかない。ウサギちゃんがみてるからがんばるの」