結城は物好きもいたもんだなと、一瞥するが、その顔を見てハッとした。

紗世だった。

「どうしたの?」

「……ちゅうしゃ、いたいからイヤだーっ」

結城は紗世が喚く子供を宥める必死な顔が滑稽で、見ていられなかった。

下手な宥め方だと思い、舌打ちをして、側に寄る。

結城が肩を2回叩くと、紗世は振り向いた。

結城は思わずとった自分の行動を後悔する。

――喋れないんだった

結城はこの時期、いつも持ち歩いていた画用紙を広げ、文字を書く。

『ただ声を掛けても泣き止まない』

紗世はあんぐりと口を開け、結城を見つめる。

結城は理学療法士に、発声に効くと言われ風船を数本、ポケットに忍ばせていた。

吹き込む息の強さが足りないのか、何度やっても、結城には上手く膨らませられない風船。

『悪い、膨らませて』