結城には、紗世の明るさが「うつむかないで」と、繰り返し訴えているように思える。

結城が事故の衝撃で口が利けずにいた頃。

新入社員研修の各部署見学で、編集部にも数名の新入社員が、人事部の研修担当に引率され、ほんの数10分訪れた。

その中に紗世がいた。

童顔で、まだ学生気分の抜けきらない、はしゃいだ様子をした新入社員。

結城はそんな印象を受けた。

――場違いな奴がいる

そう思ったほどだ。

結城は紗世を社内で見かけるたび「相変わらず弾けてるな」と、感じていた。

休日に、発声リハビリを受診し、黒田の病室を見舞った後。

病院のロビーを通ると子供の泣き声が響いた。

結城は「親は何をしているんだ」と、顔をしかめた。

若い女性が泣きわめく子供に駆け寄り、手にしていた書類を床に置き、笑顔で話しかける。