「麻生さん、机の上のパソコンと資料を持っていらっしゃい」

黒田はピシャリと言って、自分の席に移動する。


「……黒田さんは……俺より厳しいぞ」

結城が内緒声で言う。

「えっーーっ」

紗世は泣きそうな顔で、パソコンを抱え、黒田の隣の席に移る。

紗世の耳に、結城の深い溜め息が聞こえた。

結城は黒田の気遣いに感謝しながら、やるせなさをひしと感じる。

壊れている体――病弱という枷、重い鉛が、胸の苦しさ体の怠さを倍にも感じさせる気がしてならない。

結城は、胸にあてた手をきつく握りしめる。

――あの時、事故にあったのが黒田さんではなく……俺だったら

結城は眠れずに、繰り返し見る事故の夢に自嘲する。

うつむいて過去を嘆いても、どうしようもないのは、結城自身わかっている。

なのに、いくら頭でわかっていても心が前を向くことを拒む。