「はい」

紗世は言われるまま、結城の背を撫でるように擦る。

「もっとしっかり擦りなさい」

「はい」

「あなたには言っておくべきだったわ。由樹が机に突っ伏している時は、話しかけないようにと」


紗世は「えっ?」と声を上げそうになる。

「由樹が大声を出すなんて……用心していて滅多にないのよ」

紗世は言われてみて、そうだなと思う。

「聞いてるでしょう? 由樹は心臓が悪いの」

結城の手が黒田の手を掴む。

ギュッと強く爪痕がつくほどに。

「……余計なことを……話すな」

黒田が押し黙る。

数分間、重い空気が流れる。

「……30分で起きるから」

結城がポツリ呟く、頼りなく細い声で。

「ゆ、結城さん。か、帰ってゆっくり休んでください。わ、わたしっ。結城さんのマニュアル見ながら、が、頑張りますから」