紗世は結城の後ろ姿を不安げに見つめている。


「由樹、『万萬詩悠』の連載を来週から載せるぞ」

「上から許可が取れたんですね」

「ああ、麻生から5話分の原稿は既に受け取った」

「チェックは大丈夫でしたか?」

「申し分ない出来だ。『限りなくグレーに近い空』を越える傑作になるだろう」

渡部は上機嫌だ。

「それは……沢山江梨子に対抗し得るという意味で?」

「沢山江梨子の焦る顔が目に浮かぶな。売れっ子女流作家という位置に甘んじて余裕かましてる暇はなくなるだろうよ」

「……そんなもんですかね」

結城は溜め息混じり冷めた口調で言う。

「俺には、万萬の作品がそんなにスゴいようには思えませんけど……『限りなくグレーに近い空』も感傷に浸った青臭い作品だったし」

「お前は、ったく厳しい評価をするもんだな」