「結城……さん?」

結城はエレベーター内の様子が信じられないほど、しっかりとした足取りで進む。

結城の肩は忙しなく上下している。

編集部ドアの前。

結城は紗世を振り返る。

「……他言するなよ。心配をかけたくない」

呟くように言って静かに微笑む。

――結城さん

紗世は結城のあまりにも穏やかな笑顔に、圧倒されコクり頷く。

ドアを開け、結城は「おはようございまーす」と声を張る。

つい数秒前まで、肩で息をしていたとは思えないほど、明るい声だ。

編集長「渡部」の席へ真っ直ぐ向かう。

「ご心配をおかけしてすみませんでした。姉から『編集長から電話があった』と聞きました」

「で、検査はどうだったんだ!? ずいぶん顔色が悪いようだが」

「とくに変わったことは」

「そうか、だが無理はするなよ」

「はい」