「あらっ、ラッシュ時間に貴方がいるなんて珍しいわね」

列に並ぶ一際派手な女性が、結城に話し掛ける。


「浅田……」

「いいざまね。気分でも悪いの?」

結城は鋭い目で浅田を睨む。

「そうだな……あんたの顔を見たら、いっきに気分が優れなくなったかな」

「相変わらずね。貴方のような平同然の社員、辞めさせることなんて容易いのよ」

浅田が結城の前に立ち、声を潜める。

「親の権力に物を言わせて!? やれるものならやってみろよ。例の事故、洗いざらいぶちまけてやる」

結城もそれに合わせ声を潜める。

結城は言いながら、浅田に左手の甲を見せる。

浅田がその傷を目にし「ひっ」と声をあげ、顔を背ける。

「泣き寝入りしたわけじゃないぜ。女相手に女々しくガタガタ騒ぎたくなかっただけだ」

浅田が結城を見上げ、黙りこむ。