相田は穏やかに笑顔を向ける。

「心の傷がさ、癒えるまでにはまだ時間が必要だと思うんだ」

「……」

「幾重にも複雑に絡まった糸をほどいて真っ直ぐにして、縦糸と横糸を辛抱強く紡いでいくみたいにさ」

「絡まった糸ですか」

「うん。無理にほどこうとすれば益々、絡まりそうだ」

「何もできることはないんですか? ただ待ってるだけで」

「ただ傍で待ってる人がいるって大事だと思うな。『君は1人じゃない』って、しっかり見守ってるって大事だ」

「……相田さん」

紗世は声をつまらせる。

「前にさ、結城から離れてって俺は紗世ちゃんに言ったけど、紗世ちゃんは結城の傍に居てあげて」


「えっ!?」

「紗世ちゃんなら結城に本当の笑顔を戻せる。そんな気がする」

紗世は首を傾げながら小さく笑った。