「結城?」

「俺は沢山先生のご指名だったとしても、先生の担当者にはなりませんからね」

沢山江梨子はベストセラー作家だ。

10年前、純愛小説でユーカリ社主催のユーカリ賞を受賞し、文壇に華々しくデビューした。

以来ずっと、書けば当たるヒットメーカーとして売れに売れている。

高飛車、自己中、我が儘、ヒステリックでも有名だ。

「俺は編集長命令で来ただけです。今日は不本意ながら1ファンとして沢山江梨子を観察させてもらいます」

結城は凛として言い放つ。

相田に案内され、部屋の奥に進む途中。

「麻生。お前は、ただ頷いてるだけでいい」

結城は紗世に耳打ちする。

噎せ返るキツイ香水の匂いに結城は、手で鼻を覆う。

「吐きそう。香水キツイな」

結城はポツリ呟く。