「疲れてなんか……」

紗世はぷくり頬を膨らませる。

――麻生さん。原稿、問題ないなら帰っていい? 徹夜で眠いんだ

「あっ、送っていくわ」

――家、近くだから大丈夫

万萬はヴァイオリンをケースに仕舞う。

紗世からUSBを受け取り、パソコンを操作する。

素早くデータを落とし紗世に手渡すと、パソコンを閉じて、鞄に入れ席を立つ。

机に置かれた伝票をサッと手に取って。

「あっ、万萬くん」

万萬はポケットに手を入れ、中から何かを数個取り出すと、紗世の手をそっと掴かむ。

手のひらをゆっくり優しく広げ、その上に取り出した物を乗せる。

小さなハートの絵が描かれた包みだ。

紗世は掌をまじまじ見つめ、首を傾げて万萬を見る。

「あっ……1粒で100メートル走れるブリッコのキャラメル」