――綺麗な涙

紗世は不謹慎だと感じながら、そう思った。

5分ほど、左手を覆い痛みを耐え、震えを抑えていた万萬。

顔を上げ、まだ僅かに震える手で「すみません」という手話をする。

「ごめんなさい。腱鞘炎、痛むのね」

紗世が心配そうに眉を下げる。

――リハビリはしているんだけど、小指が自由に動かなくて、他の指で補ってしまうから……

さらさらと右手で書いた文字を見せる。

「原稿打ちも大変なんでしょう?」

紗世は言いながら、頭の中で何かが引っ掛かった。

――結城くんの怪我はかなり深い傷だったの

愛里の言葉が浮かぶ。

紗世はボーとして原稿を握りしめる。

万萬は紗世の目の前で手を振る。

紗世は気付かない。

万萬は紗世の腕を数回、揺さぶる。

「あ……万萬くんを見てると結城さんを思い出しちゃうの。何でだろう」