紗世は音楽のことに詳しくはない。

でも、万萬がかなりの弾き手だというのは、何となくわかる。

胸に染み入り、心を揺さぶりギュッと抱きしめられるような感覚。

紗世はヴァイオリンを弾く万萬の顔が一瞬、聖母マリアの顔に見え、目を擦った。

曲を弾き終えた万萬が、コトリと、ヴァイオリンと弓を机の上に置く。

左手が見た目にもわかるほど、震えている。

万萬は右手で、左手を覆い震えを抑えようとする。

痛みを堪えるようにしかめた顔から、苦しげに声が漏れる。

「万萬くん……大丈夫?」

万萬は椅子に力なく腰を下ろし、左手を庇うように踞る。

「万萬……くん」

よほど左手が痛むのか、痛みを堪えるせいなのか、万萬の頬につうぅと一筋涙の雫が伝う。

紗世は「あっ」と息を飲んだ。