紗世は沢山江梨子は到底、この文章には敵わないだろうと思う。

「酷だわ、この作品を同時連載にぶつけるなんて」

紗世がポツリ呟くと、万萬がピクリ動き顔を上げる。

万萬は人差し指を真っ直ぐ立て、左右に振る。

「どうだった?」の仕草だが、紗世には理解できない。

万萬は原稿を指差し、再び人差し指を左右に振り、「原稿はどうでしたか」と口を動かすが、声はない。

「原稿の評価ということかしら?」

紗世が万萬に訊ねると、万萬は首をふるふると縦に大きく動かす。

「雨が止んで陽射しが差し込んでいて、色々な物の色が鮮やかになっていくのに、切ないの。吉行斎の仕草も思いも言葉も。グイグイと作品に引き込まれていくの」

万萬は真剣に、耳を傾けている。

「吉行斎がどんな演奏をするのか聴いてみたい、この3話に弾く『アメイジングレイス』を」