――結城さんに見える

紗世は数回、目を擦る。

集中しなきゃと思い直し、原稿を読む。

1頁、2頁と読み進めるうち、紗世は万萬の繊細な文章から醸し出される透明さとは別の物を感じとる。

――これは……「限りなくグレーに近い空」は色を感じさせない文章だった

1話、2話、3話と頁を進めながら、少しずつ色採り豊かになっていくような文章だ。

無表情だった主人公がしだいに人間味を取り戻していく。

――「限りなくグレーに近い空」は例えれば冬だった。でも……これは例えれば春

その美しい描写と流れるような文章から伝わる、主人公の心情に思わず溜め息が漏れる。

――こんな文章を万萬くんが書いたの? こんなに豊かな文章を!?

紗世は原稿を読み進める手も目も、止められない。

――凄い