万萬はむくり頭を上げ、画用紙を広げる。

――すみません。少し早目についてしまって

右手で素早くモを書き、紗世に向ける。

「結城から5話まで仕上がっているって聞いてるんだけど」

紗世は言いながら席につく。

―― 一応、打ち出してはきています。
可笑しな所があれば修正します

万萬はファイルから原稿を取り出し、紗世に手渡す。

「ありがとう。読ませてもらうわね」

紗世は原稿を受け取り、穏やかに微笑み、万萬が頷いたのを確認する。

――あの、読み終えたら起こしてください

万萬はさらさらとペンを走らせ、紗世をつつきメモを見せる。

「寝てないの?」

紗世は訊ねて、万萬の顔を見る。

目深にかぶっている帽子。
下ろされた前髪が顔半分ほど被さり、眼鏡で顔がよく見えない。

が、顔色がすぐれないのは何となく解る。