紗世と万萬詩悠の打合せは、1時半。

紗世は正午過ぎ、結城から「万萬はお前が思うほど、気難しくはない。頑張れよ」とメールを受け取った。

木造風で落ち着いた佇まいのカフェで待ち合わせた。

万萬は時間より少し早目に、カフェに着いた。

机の上で持ってきたパソコンを立ち上げ、プリンターで打ち出した原稿と、メモ帳代わり画用紙を置き、机に俯せる。

目深に被った帽子、目を覆った長さの前髪、丸みを帯びた大きめの黒縁眼鏡――相変わらず、顔がよくわからない。

チノパンに、カラーシャツに、細身のカートソージャケット、左手にはサポーター。

注文したグレープフルーツジュースは、僅かに口をつけただけで、殆ど減っていない。

待ち合わせ時間10分前、カフェに着いた紗世。

帽子を目印に、万萬を見つけ、万萬の肩を軽く叩き「ごめんなさい」と謝る。