結城の手が帰ろうとする黒田の手を握り、離さない。

雨は陽が落ちて尚、降り続いている。

結城の姉「詩乃」が帰宅したのは7時過ぎ。

詩乃は玄関に入るなり、驚いた様子も見せずに「由樹がご迷惑を」と頭を下げた。

「今日は朝から調子が悪そうだったから、何度かメールを入れてたの」

黒田は屈託のない笑顔に、面食らう。

委細を話し、帰ろうとしたが、詩乃に「会社まで送ります」と押しきられた。

結城とは性格も体格も違う詩乃は、物怖じすることなく笑顔で話す。

「あの事故の後、由樹は半月近く脱け殻のようだった」

詩乃がポツリ溢す。

「あなたに後を任されたって毎日、画用紙を持って……なのにあの子、一言も泣き言を言わなかったの」

「一言も?」

「俺が具合悪そうにしてると、黒田さんは悲しい顔をするからって」

「私が……」

黒田は首を傾げる。