黒田は口元に手を翳し、息を確かめる。

「由樹!?……由樹」

額に手を触れハッとし、「微熱なんて嘘じゃない」呟く。

ソファーの側。
無造作に置いた、結城の鞄に手を伸ばす。

――鞄の中に冷熱シートがあるはず

ぐったりと床に横たえたまま、結城は喘ぐように息をつき動かない。

――どうしていつも何も言わないの?


結城の名を呼びながら、黒田の脳裏に1年半前が甦る。

――急いでいた、雨の中を……ただ、急いでいた


黒田は結城の歩調が遅いのは、いつものことだと言い聞かせた。

後ろを歩く結城のいつもより荒い息遣いに気づきながら……。

黒田は朝から数件、出先を回りながら、体調が悪そうにしている結城の様子に気づいていた。


何も言わずに、黒田の指示を見越し完璧なサポートをする結城の仕事ぶり。

いつもと変わらない様子に、大丈夫だろうと高を括っていた。