黒田は結城の頭に、そっと手を触れる。

「雨が小降りになるまで」

結城は黒田に身を預け、頼りなく震える声で小さな呟きを漏らす。

黒田は結城の頭を優しく撫でる。

ただをこねる幼子をあやすように。

震える結城の肩を抱き寄せる。

「忘れなさい、あの日のことは。貴方のそんな顔は見たくない」

「忘れるなんて……」

「貴方は颯爽としていなさい。私の育てた『結城由樹』は、いつだって凛として前を向いてなきゃ」

結城は黒田を抱き寄せ返し「いやだ」黒田の耳元で呟く。

「俺は……そんなに強くない……強くない」

結城から仄かにグリーンノートが香る。

火照った結城の体温と息遣いを感じ、黒田の胸がちくと痛む。

「雨が止むまで……黒田……さ」

黒田の耳元で呟く声が途切れ、黒田を抱き寄せた結城の体が崩れるように、床に沈む。

――由樹!?