「大手企業重役の娘だからと、口封じさせられた…」

結城は手の甲の傷を見つめる。

「……腕1本潰されそうになって泣き寝入り……許せるわけがない」

結城は手を握ったり伸ばしたりを繰り返しながら、時々顔をしかめる。

「まだ痛むのね」

「こんな天気の日には……それに小指は、今も元通りに動かない。ヴァイオリン、ガダニーニの超絶技巧曲とか得意だったのにな」

「そんなに酷かったなんて」

「昨晩は恐くて眠れなかった……もう、あんな思いはしたくない」

結城は黒田が今まで見たこともないような、険しい顔をする。

窓を打つ雨は、一向に収まる気配がない。

結城はエアコンの電源を入れ、温度調整をする。


「黒田さん、寒くない?」

言いながら、ソファーの上に折り畳んだカットソーを羽織る。

「小降りになるまでいるだろう?」