「編集長に黒田さんの後を引き継げって言われて……手話教室にも通ったし、画用紙で筆談して」

「大変そうだからと、編集長が貴方に新人をつけたわね」

「浅田が絡んできたのも、あの頃……からかわれているとしか思わなかった」

「貴方が断ったという噂は、あの頃かなり話題になったわ」

「俺は恋愛どころじゃなかった……だから断った」

「嫌がらせが始まったのはその後ね」

「まさか、彼処(あそこ)までやるとは思わなかった……倉庫に新人使って呼び出された挙げ句、これだ……」

「あ……」

黒田が思わず目を叛ける。

左手の甲に刻まれた深い傷は、未だに赤黒く痛々しい。

「危うく、指が全く動かなくなるところだった……必死でリハビリして、何とか……けど」

「浅田さんのしたことは隠蔽されて、新人は精神的におかしくなって……辞めたわね」