「あ……結城さんが、官能小説のほうがマシっていったのは、そういう意味だったんですね~」

「官能……はは、中途半端に濃いのは確かだが、双方とも好き嫌いの分かれる作品だな」

「そうですか~、わたしは『限りなく』の方がイメージしやすいです」

「麻生、そこだ。『限りなく』は純文学的な繊細さと描写が高く評価される作品だ。あの描写は沢山江梨子には書けないだろうな」

「編集長、逆はどうなんでしょう? 万萬くんが沢山先生のようには」

「ん……書けるとは思うが書かないだろうな。万萬の売りは鮮やかなカラーじゃない。薄い和紙1枚越しに見る光彩のような、『限りなく』は水墨画のような」

渡部のどや顔が、紗世には「万萬の方が巧い」と言っているように聞こえる。

「編集長……あの晩、駐車場で」

紗世は一部始終をポツリポツリ話す。