紗世はぷくり頬を膨らませる。

黒田は、その顔を見ながら「彼女の癖ね」と思う。

「ちょっと気分転換してきます、屋上で」

スマホを手に、紗世は編集部を出る。

「芽以沙、ありがとうな。助かったよ」

渡部が紗世の背中を見送り、黒田に手を合わせる。

「由樹がよく面倒を見ているのは、わかってるからな」

「ですね。由樹はあの子、大事にしてますね」

「そうだな。芽以沙、お前は大丈夫なのか?」

「編集長、私は由樹の笑顔が見たいんです。由樹の本当の笑顔が」

黒田が結城の席を見つめる。

渡部は「不器用だな」とポツリ。

「性分ですから……」

黒田はヒールを鳴らし、席に戻る。

「ん……!?」

黒田がスマホの震えに気づき、上着から急ぎ取り出し操作する。

着信は「西村嘉行」意外な名前に、黒田の表情が固くなる。