――そんな無茶な

紗世は言いたい気持ちを飲みこむ。

「貴女、万萬詩悠の作品を読んだんでしょう!? 素直に感想を伝えてごらんなさい」

「感想……ですか」

「下手なおべっかや飾り言葉でなく率直に。おだてや誉め言葉でなく」

ニコリ微笑む黒田の顔は、かつて鬼と呼ばれた形跡を微塵も感じさせない。

柔らかな暖かい笑顔だ。

「ありがとうございます。そうですよね。ちゃんと本気で向き合わなきゃ何も話してくれませんよね……結城さんに頼ってばかりじゃダメですよね」

「ええ、……由樹に似ているって貴女、言ってたわね。私もね『限りなくグレーに近い空』を読んだ時、そう感じたの。一筋縄ではいかないかもしれないけれど、頑張って」

黒田がふふっと穏やかに笑う。

「一筋縄では……そんな~」