ぷくり頬を膨らませる。

「結城はその辺り、何も対処しないのか?」

渡部が険しい顔で結城の席を見る。

結城は朝から、ミステリー作家「西村嘉行」の自宅に行っている。

「1対1で話さなきゃ作家との信頼関係は築けないって、同席してくれないんです。それに、大事なことはマニュアルに詳しく書いてあるって」

「言ってることは最もだがな……万萬詩悠は、口が利けないからな~。筆談には限界がある……結城はその辺り、わかってるはずだがな~」

渡部は眉を下げ、腕を組む。

「結城と少し話してみるか……意外と頑固だからな」

黒田がハイヒールの音を響かせる。

よく見ると、左右高さの違うヒールを履いた黒田。

「マニュアルをしっかり読みなさい。由樹はちゃんとヒントも書いてあるはずよ」

黒田の言葉は厳しい。

けれど、その顔には優しさが溢れている。