結城の声が震える。

「心臓発作起こして、体が痙攣して動けなかった……黒田さんは足に大怪我して」

「えっ！？　黒田さんってヒール、今も履いて」


「ヒール、左右高さが違う。わからないようにしてるけど……それにパンツしか履かない」

「……気づかなかった」

紗世が口元に手を当て、泣きそうな顔をする。

「朝から何件か作家先生宅を回っていて、あの日は体調が悪かった……最後の１軒回って帰社する途中だったから……『気分が悪い』と言えなかった」

紗世の肩が小さく震える。

「たった１歩、踏み出して手を伸ばせば……届く距離が……動けなかった」

「もういいよ、結城さん」

紗世が堪らえきれず、叫ぶ。

「なのに……『原稿を頼むわよ』って……左右高さが違うヒールしか履けなくなったのに……一言も、愚痴１つ言ってくれない」