「老眼に早くなる体質だな」

「老眼って……」

紗世はぷくり頬を膨らませ、結城の横顔を見る。

結城は雨が降り出してきそうな空を、フロント硝子越しに確認する。

「……怒鳴ってすまなかったな」

結城が静かにポツリ、溢す。

「黒田さんさ……俺のことになるとヒステリックになるだろ? あれは理由があるんだ」

結城が淡々と穏やかに、頼りなく話し始める。

「黒田さん……今、外回りって数えるほどしかしないだろ。でも、1年半前までは、鬼って言われるくらい凄い人だったんだ」

紗世は黙って頷きながら、聞いている。

「ちょうど、こんな空をした日だった。黒田さんと出先で、横断歩道を青信号で……渡ってた」

結城が辛そうな顔をする。

「信号無視のバイクが突っ込んできて……驚いて咄嗟に黒田さんの手を掴もうとした……『危ない』って……でも動けなかったんだ」