結城は社を出て車を走らせながら、一言も喋らない。

重苦しい空気を感じ、紗世は落ち着かない。

「……万萬の作品は読んだか?」

結城が20分ほど車を走らせた頃、紗世に訊ねる。

カーステレオから音楽が低く鳴っている。

「えっと……進行中です」

「読みにくいのか?」

「いえ……感情移入し過ぎて冷静に読めなくて」

「どういう読み方をしたら、そんなに感情移入できるんだ?」

「万萬くんの雰囲気が作風とシンクロしちゃって」

結城が「お前は……」呆れたように長い息をつく。

「万萬くんって結城さんにも似てますよね」

「……俺はあんなにダサくない」

「そうですか~? 前髪上げて、眼鏡を角形に変えて、スーツ着たら似てますよ~」

「視力が弱いのか?」

「いいえ、2.0がはっきり見えます」